新年明けましておめでとうございます。
院長の湯口です。
新年になり10日以上が経過しました。
昨年は世間的にはもちろん個人的にも大変な一年、激動の一年になりました。
2020年1月金沢でのインプラント講演、2月のOJミッドウィンターミーティングでの日本代表演者の栄誉獲得・・・までは良かったのですが、そこから新型コロナウイルス蔓延による北海道での緊急事態宣言発令に始まり未曾有の事態になっていきました。
インプラント治療のロサンゼルス講演も延期になり、出張が全くなくなった代わりにリモートで開催される勉強会や講演会なども始まりました。
未だに収束の出口が見えない中、今年は果たしてどんな一年になるのでしょうか。
Yours Dental Clinic にとっても、みなさまにとっても良い一年になることを願うばかりです・・・。
さて、今回は前歯を失った場合の対処法についてです。
前歯の差し歯にトラブルが起きた経験はありませんか?
トラブルとは差し歯になっている歯の冠が外れてしまったり、歯が痛んできたりする事態です。
1本でも前歯にトラブルがあると、普段の食事が全くできなくなります。
食事を最初にお口の中に取り込むのは前歯なので、差し歯が外れてしまった、もしくは前歯が痛ければ食事に苦労することになってしまいます。
固いものはあまり噛まないとは言え、パンやお肉など普段固いものという認識のない食べ物も、前歯で咬み切らなくては食事できません。
まして痛い場合には、食事していなくてもズキズキ病んだり
夜寝ていても数時間後に目が覚めてしまったりと心労もたまってしまいます。
「こんなに痛いなら歯を抜いてほしい!」と言う方もいるくらいの激痛に見舞われることもあります。
前歯1本とは言え、あなどるなかれです。
炎症の度合いや、残存歯質の状況によっては残念ながら歯を保存できない場合もあります。
一旦歯を失ってしまうと、何が起きるのかと言うと、歯ぐきや骨が吸収してしまいます。
簡単に言うと「歯ぐき痩せ」が起きてしまいます。
前歯は特に見た目に一番関わる歯なので、たとえ抜歯後にブリッジ(連結冠)の治療をしたとしても「歯ぐき痩せ」により歯ぐきも凹んでしまうとまず見た目がキレイになりません。
それを回避する一つの手段として、「歯根を温存した審美インプラント治療」を以前にご紹介させていただきました。
興味がある方はこちらもどうぞ↓
https://yours-dental.com/前歯の審美インプラント治療2020/
温存できる歯根がある場合には活用しますが、温存できる歯根がない場合でも審美的な結果に導くことは可能です。
では実際に当院で2019年から2020年にかけて温存する歯根もない場合に前歯を治療した例を解説して行きましょう。
何年も前に近所の歯医者さんで前歯のブリッジ(連結冠)を治療した患者さまのケースです。
「前歯の差し歯が動く」と言うのでレントゲン写真を撮影すると、
ブリッジを支えている前歯が全て破折や根尖病変を伴う病態でした。
残っている健全な歯質も薄くペラペラで保存してもう一度ブリッジで治療するのはさすがに難しそうでした。
うまく保存できる歯も中にはあるかもしれないけれど、あったとしても何年持つかは分からないというお話をしたところ、
長持ちする方法がインプラント治療の方であればインプラント治療を希望したいということでした。
そうなると
「どうやってインプラントでキレイな前歯を造って行くか」
ということを考えなくてはいけません。
インプラントの際にも前歯を抜歯したら当然ながら骨と歯ぐきを失います。
インプラントを自分の骨の中に埋めつつ必然的に起こる「歯ぐき痩せ」を回避する方法が必要になります。
また、何本も繋がったブリッジを外してインプラントに置き換える場合は、何本インプラントが必要になるのか、どの歯をインプラントに置き換えるべきか、を考えなくてはいけません。
天然歯の場合はブリッジにすると、それぞれの歯が生理的に動揺するので、噛み合わせが良くない場合や歯と歯の平行性が悪い場合、あるいは支台歯の長さが不揃いな場合などに、部分的にもしくは全部の支台歯が外れてしまうリスクを考慮しなくていけないのですが、
インプラントの場合には、支えている歯槽骨がたわまない限りほぼ動かないので、ブリッジにしたとしても天然歯のような脱離するリスクは低くなります。
また、インプラントの本数を失ってしまう天然歯と同じ本数だけ埋入してしまうと、
お互いのインプラントが近接してしまうことによるソーシャライゼーションを起こし、インプラント間の骨が吸収してしまうこともあるので
長期的に安定した審美的な結果を得るのには不利になる可能性があります。
そのため、前歯のインプラントの場合には例え複数本の歯を失ったとしても連続で何本もインプラントを埋入せずに、
ポンティックを活用しながら必要最小限の本数のインプラントを選択する方が良いわけなんです。
この天然歯からインプラントに置き換える際に、「いかにインプラント周囲骨を温存できるか」が、術後のインプラント周囲の骨の安定性に繋がり、インプラント周囲炎を回避してインプラントの長期予後に繋がるのです。
今回の症例では、事前のCBCTの診断などから7本の歯を4本のインプラントで支える設計にしました。
金属の被せ物を外して行くと、メタルタトゥーが複数範囲に及んでいたので、まずはメタルタトゥーを除去していきます。
メタルタトゥーとは、保険治療で使用される金属を削るときにでる金属粉が、歯ぐきの中に入り込んでしまって歯ぐきが黒ずんでしまう現症です。
メタルタトゥーを予防するには、金属を削った粉をこまめに洗浄することと、歯ぐきを出血させないことが重要ですが、
一度できてしまったメタルタトゥーはメスかレーザーで切除しないと無くなりません。
これでインプラントを埋入する下準備が終わりました。
いよいよインプラントを埋入していくのですが、埋入方法は歯を抜歯した日のうちにインプラントの手術を行う抜歯即時埋入法を選択しました。
しかもフラップレス(歯肉切開なし)で埋入することで歯ぐきの傷跡も残さない術式にしました。
傷を開かないということは骨の露出もないので、骨吸収も最小限に抑えることができます。
できるだけ最小限度の侵襲で手術を行うのが歯周形成外科医の鉄則です。
インプラントの埋入手術が終わったら、仮歯を装着していくのですが、ここにもコダワリが。
仮歯をインプラントの本体に装着させるときに、骨の吸収が起こることが報告されています。
このようにインプラント治療は手術だけではなく、手術の前や手術の後も色々と配慮すべき点がたくさんあります。
インプラントブリッジ(連結冠)の場合の治療成功のキーポイントは「歯がない部分をいかに歯があるように見せるか」になります。
骨吸収を抑制しながら歯ぐきのマネージメントを行い、技工士さんに上部構造を作製していただきます。
そして最終的な仕上がりが下記のような状態です。
歯がないところもインプラントをしたところも同様に歯があるかのような見た目を獲得できていることが分かります。
このように前歯を失ってもインプラントを活用することによって自然な見た目を獲得することができるのです。
歯を保存する方法を駆使しても予後不良だと判断した場合にはインプラント治療によって審美的な結果を導くように最善を尽くします。
前歯のトラブルがあった場合にはぜひ一度ご相談ください。
と言うわけで、長くなりましたが今年もどうぞ宜しくお願い致します。
(上記の写真は全て患者さまの了承を得て掲載しております。)