歯を残す治療とは?
歯は毎日使います。そのため、長い年月をかけて消耗していきます。それと同時に虫歯や歯周病などの歯科疾患リスクも伴うため、年齢を重ねていくごとに
- 歯がすり減る
- 歯の神経を取らなければならない
- 歯が欠けたり、割れる
- 歯周病によって歯を支える骨が溶かされていく
など、多くの問題が発生している人が多くいらっしゃいます。これらの問題が発生しているからこそ、「できる限り歯を残してほしい」と思って歯科医院で治療を受けているのであろうと考えます。
一方で”歯を残す”という言葉がひとり歩きをしてしまい、患者さんにとってデメリットが伝わらずにメリットだけが強調されていることに少し危機感を感じているのが正直なところです。この歯を残す治療のページでは、当院の保存の定義や基準、メリット・デメリットを交えながら、詳細にお伝えしていこうと思います。
当院が考える歯を残す定義
「保存と抜歯を天秤にかけた時、1〜2年でトラブルが起きる可能性が大きい場合は抜歯を提案する」という定義があります。
つまり、例え歯を残せたとしても1〜2年でトラブルを引き起こすことが確実であろう症例に対して、それなりの費用を支払ったとしても投資対効果が得られないことを考える必要があるということです。
歯科医療従事者は、誰もが抜歯したくはないでしょう。
前提としてまずは【保存してある程度長期間良好な状態を維持できる可能性があるのであれば、歯の保存を試みる】ということをご理解ください。
もっというと、他の歯が同じことにならないように、予防歯科を強く推奨します。
歯を残す基準
歯を残すには明確な基準があります。
それは「必要な機能と審美性を十分に取り戻すことが可能であるか?」です。
エビデンスベースで考えると、歯を残す基準はとてもシビアになります。この基準に沿って考えることが、最も患者さんに利益があるのではないかと考えています。
当院が大切にしていること
定義や基準があるとはいえ、患者さんのご要望はきちんと受け入れて考えていきたいと思います。その上で患者さんと基準を軸に話し合うことを大切にし、一方的な提案にならないように、以下のことを大切にしています。
患者さんのご希望を大切にする
エビデンスをベースにすると、歯を保存することが難しくとも、患者さんの希望を鑑みて、90%の確率で1〜2年以内に何らかのトラブルが起きてしまう可能性があるとしても、10%の望みにかける、チャレンジケースとして歯を保存することが可能です。
インプラントの時期を遅らせる
インプラントのページでもお伝えしていますが、インプラントが一生良好な状態で維持できたというエビデンスはありません(最長約40年)。
人生100年時代と言われている日本において、インプラントが必要になる年齢はなるべく遅らせたほうが、有利であるといえるでしょう。
そのために歯を保存し、メンテナンスを継続していきながらできる限り長期間維持できるようにすることも大切なポイントになります。その時に歯科保存治療は役に立ちます。
ご自身が大切な歯と向き合う時間にする
歯の保存は”歯の延命治療”という側面もあります。
保存した歯が抜歯になってしまうその時まで、メンテナンスを行いながら向き合っていただきます。
それによって、他の歯を大切にする気持ちが芽生えたり、欠損補綴治療を受け入れる時間も確保することができます。
単純に歯を残すという話ではなく、歯を残した先に何があるのかを考えることがとても重要であると考えています。
歯を残すことが本当に良いのか?
ここまで、歯を残す定義や基準、当院の大切にしていることをお伝えしてきましたが、ここでは歯を残すことのメリット・デメリットを包み隠さずリストにしています。
歯を残すメリット
- 咀嚼機能の回復
- 歯根膜を温存することによる、感覚器(咬む感覚、咬む力の感覚)の維持
- 受圧機能(噛む力のクッションのような役割)の維持
- 審美性の維持
- 発音機能の回復
- 歯列の維持
これらのメリットがあります。
歯を残すことは、天然歯にしか無い歯根膜を温存することによって、感覚器や受圧機能の維持ができます。したがって、歯根膜はインプラントには存在しない重要な組織であるということがおわかりいただけると思います。
歯を残すデメリット
- 虫歯の再発リスク
- 歯周病の再発リスク
- 根尖病変になる、もしくは再発するリスク
- 歯根破折のリスク
- 高齢になり、身体的な健口が維持できない場合は、代替治療に制限が起きる場合がある。(例えばインプラントができずに、入れ歯になるなど)
歯を残すことは、メリットがある一方、将来的に何らかの問題が起こる不安を抱え続けることになるというデメリットがあります。
いつまでも、どんな治療でも受けられるというのは誤解で、将来的に治療の制限が掛かる可能性があります。そういった場合を想定して、歯を残すメリットを得るか、デメリットを考慮して、長期的安定を目指すかを判断する必要があります。だからこそ、予防歯科が大切だと言えるかもしれません。
当院が行う歯科保存治療のメニュー
- 歯髄保存治療:歯の神経を保存する治療
- 根管治療:歯を残す治療
- 歯根端切除術:歯の下側から治療し、歯を残す治療(逆根管治療)
- 自家歯牙移植:咬み合わせに参加していない天然歯を移植して天然歯の機能を保存する
- 歯周病治療、歯周組織再生療法:歯の土台を守る治療、歯周組織を再生させる治療